フーガと学習フーガ
フーガとは
フーガ(伊:Fuga 仏:Fugue 日:遁走曲)とは、対位法的書法での模倣を主体とした書式のことです。その最大の特徴は、主題(主唱)が複数の声部に渡って順次登場するところでしょう。なお、フーガは14世紀といった古い時代では、カノンのような模倣を含んだ楽曲を指していました。その後、ファンタジアやリチェルカーレといった模倣を含む対位法的作品も、フーガという書式に収斂されていきます。それでは、フーガの構造を見てみましょう。
一般的に、フーガは次の三つで構成されています。まず、主題が提示される「提示部」です。次に、提示部と提示部をつなぐ「嬉遊部」です。そして最後に、主題が終わる前に次の主題が演奏される「追迫部(ストレッタ)」です。これらをフーガの楽曲として構成すると次のようなものになるでしょう。なお、実際のフーガでは提示部と嬉遊部のみで構成しているものも数多くあります。例えば、インヴェンションの第1番もフーガと見ることができます。
【フーガの構成例】
提示部(主調) > 嬉遊部(転調) > 提示部(下属調や平行調など) > 嬉遊部(転調) > 追迫部(主調)
フーガと聞くと、平均律クラヴィーアやオルガンの小フーガなど、バッハの楽曲が思い浮かぶのではないでしょうか。バッハのフーガは、フーガという書式として一つの頂点に達していると言えます。その後、ハイドンやベートーヴェン、フランク、そしてバルトークなど、様々な作曲家たちがフーガを書いています。これらのフーガは単純だったり、ソナタ形式の中に組み込まれていたり、無調だったり、と自由に作られています。このようにフーガは厳格なものではなく、適宜に調節できる楽曲と言えるでしょう。
学習フーガとは
学習フーガ(仏:La fugue d'école)は、パリ音楽院における書法(和声・対位法・フーガ)の一つとして、19世紀に導入されたものです。その名の通り、フーガを学習するための決めたられた型となっています。それは、三つの提示部と、二つの嬉遊部、そして追迫部で構成されています。また、転調先や主題の現れる順序も概ね決まっているのも特徴でしょう。
東京芸術大学作曲科の受験二日目には「対位法楽曲:300分 つぎの主題によって、2声部以上の対位法的楽曲を作れ。」という、実質、学習フーガを書く問題がありました。しかし、2013年度でこの問題はなくなり、対位法の課題とコラール課題へと変更されました。理由は、学習フーガは対位法を良く知らなくても、和声法で書けてしまうためです。特に、島岡譲(1984)『フーガの実習』国立音楽大学では、機能和声を重視した内容となっています。次で紹介する学習フーガの作例も、機能和声を重視しており、バス課題の実施に近いものがあると感じました。
最近では、YouTubeに代表される動画投稿サイトで「学習フーガ」と検索すると好例が沢山見つかります。是非、探して見てください。
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学習フーガの作例
シャルル・グノー(1818〜1893)の主題による学習フーガの作例を紹介します。この主題は、1882年のローマ大賞(le Grand Prix de Rome)で出題されたものです。ドビュッシーもこの主題でフーガを書いています。
次の学習フーガの作例は、島岡譲『フーガの実習』を片手に書いたものです。しっかりと学習した人と比較するとかなり拙いものです。対位法よりも、和声法を優先して書いてしまったので、全体的に旋律が続いたゴツゴツした響きになっています。もっと大胆に休符を取り入れて、どこが提示部かをはっきりとさせた方が良いと感じました。学習フーガは一曲だけでも書いてみると良い経験になると思います。




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フーガのテキスト(2017)
フーガのテキストには様々なものが存在しています。しかし、その中には絶版も多く含まれています。2017年の日本で入手が容易なものとして山口博史(2016)『フーガ書法』、島岡譲(1984)『フーガの実習』が挙げられます。ここではフーガに関する書籍を、重版と絶版に分けてまとめておきます。なお、洋書は絶版なのか重版なのかよくわかりません。また、古い洋書はインターネット・アーカイブのように、パブリックフリーになったものを収集・公開するサイトで閲覧することができます。
重版のもの
- イェッペセン(2013)『対位法 パレストリーナ様式の歴史と実習』柴田南雄・皆川達夫訳、音楽之友社
- 柏木俊夫(2013)『改定増補 二声対位法 基礎からフーガまで 付 装飾法と通奏低音』東京コレギウム
- ケルビーニ(2013)『対位法とフーガ講座』小鍛冶邦隆訳、アルテスパブリッシング
- 島岡譲(1984)『フーガの実習』国立音楽大学
- 野田暉行(2003)『Fugue 新版組・増補版』E World Japan publishing
- 野田暉行(2010)『Fugue 付録』E World Japan
- 長谷川良夫(1955)『対位法』音楽之友社
- ビッチ、ボンフィス(1986)『フーガ』池内友次郎訳、文庫クセジュ
- モラール(2013)『ライプツィヒへの旅 バッハ=フーガの探求』余田安広訳、春秋社
- 山口博史(2016)『フーガ書法』音楽之友社
絶版のもの
- 池内友次郎(1977)『学習追走曲』音楽之友社
- デュプレ,マルセル(1957)『対位法とフューグ』池内友次郎訳、東京教育出版
- 島岡譲(1986)『音楽の理論と実習 III』音楽之友社
- 島岡譲(1986)『音楽の理論と実習 別巻III 上』音楽之友社
- 島岡譲(1986)『音楽の理論と実習 別巻III 下』音楽之友社
- 福本正(1966)『フーガの研究』音楽之友社
- 諸井三郎(1961)『楽式の研究II フーガ』音楽之友社
- ヤダスゾーン(1952)『カノンとフーガ(典則曲および遁走曲教程)』戸田邦雄訳、音楽之友社
洋書のもの
- Bitsch, et Bonfiles. La Fugue. Parism, Combre, 1993.
- Dubois, Theodor. Traite de Contrepoint et de Fugue. Paris, Heugel, 1901.
- Dupre, Marcel. Cours Complete de Fugue. Paris, Leduc, 1938.
- Gedalge, Andre. Traite de la Fugue. Pairs, Enoch, 1904.
- Mann, Alfred. The Study of Fugue. New York, W.W.Norton.
- Merlet, Michel. Fiche Analytique: pour une Description Rationnelle de la Fugue. Paris, Leduc.
- Richter, Ernst Friedrich. A Treatise on Canon and Fugue: Including the Study of Imitation. Arthur W.Foote(ed.), Boston, O.Ditson, 1888.
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