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金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。

カノンの書き方

カノンの書き方を作例と共に説明します。カノンは、対位法等の書籍で立項されていても、簡素な説明に終始しています。そこで体系的に、という訳ではありませんが、自作の例をもとにカノンの書き方を説明します。主として二声のカノンを扱います。本記事が対象とするのは、対位法をなんとなく知っている、という人です。しかし、対位法が分からなくても問題ありません。大切なのは書いてみる、という気持ちです。

本記事の執筆にあたって、短いながらも、様々なカノンを書きました。ここであげる作成は、対位法のテキストに書いてある記述に合わせたものではなく、筆者の作曲経験によるものです。したがって、音大や対位法等のテキストで学ぶ内容と、方法や規則が大きく異なっている場合があります。

作例の音源は、ピアノ音源を利用しています。声部が聞き取りやすいよう、上段は左から、下段は右から聞こえるよう、パンニングしてあります。

カノンとは

カノンとは、ある旋律を他の声部が同度あるいは移度して模倣し、先行する旋律を追随する様式の曲です。つぎの例は、最も基本的なカノンです(譜例1)。楽譜下段の旋律が、上段の旋律から4拍遅れて同度で模倣されています。上段の先行する旋律を先行旋律、下段の模倣する旋律を模倣旋律と呼びます。

【譜例1 同度のカノン】
同度のカノン

カノンは、作曲した旋律を単にずらせばよい、というものではありません。1音あるいは1小節といったある単位ごとに、よく響くように計算しながら作る、という地道なものです(学習フーガの主題も、ストレッタができるように設計されて書かれています)。

旋律を模倣するという点おいて、カノンはフーガと類似しています(古くは同一だったようです)。こんにちのカノンとフーガを比較してみましょう。まず、フーガは主題をもち、形式も自由ながらある程度は決まっています。また、主題以外は自由な旋律線(自由唱)を書くことが許可されています。一方、カノンは、固有といえる楽曲形式を持っていません。また、自由に旋律を書けるのもコーダに限られています。つまり、カノンはフーガと比較すると旋律が受ける拘束が厳しい、と言えます。

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カノンの基本的な書き方

カノンの最も基本的な書き方は、つぎの通りです。まず、先行旋律を単位として、それを他声部に模倣して模倣旋律を作ります。つぎに、模倣旋律を元に、新たな先行旋律を書きます。この作業を繰り返していくことでカノンが形成されます。

譜例2で具体例を示します。まず、上段の楕円で囲んだ旋律を、4拍遅らせて下段に模倣します(4拍である必要はありません)。つぎに、それをもとに上段に長方形で囲んだ箇所に、新たな旋律を書きます。そして、それをまた模倣します。このような作業を繰り返しながら曲尾まで進み、コーダを書いて終わります。なお、コーダで終わるものを有限カノン、反復記号で繰り返せるものを無限カノンといいます。

【譜例2 基本的な書き方】
基本的な書き方

しかし、実際にカノンを書いてみると、「こういう旋律を書きたい」という強い気持ちが生じます。模倣旋律がそれを許さない場合は、その旋律が書けるように、模倣旋律を修正する必要があります。そのためには先行旋律に巻き戻って修正する、といったことも必要になります。つまり、カノンの作成は単に模倣すればよい、というものではなく、前後や全体に拘束され、それらとすり合わせながら書いていきます。

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各種カノンの書き方

様々なカノンを実例とともに見ていきます。ここでは、8種類のカノンを取り上げます。それは、平行カノン、反行カノン、逆行カノン、反・逆行カノン、拡大カノン、縮小カノン、二重カノン、無限カノンです。注意点やコツがある場合は、補足します。

並行カノン

前項でもとりあげた最も基本的なカノンです。先行旋律と同じ音形で模倣されるカノンを並行カノン(順行カノン)と呼びます。前項での例(譜例1)を含めて、同度(1度)、6度、9度のカノンを書きました(譜例3・4)。どの度数でも書きやすさはそう変わらないと思います。

【譜例3 6度のカノン】
6度のカノン
【譜例4 9度のカノン】
9度のカノン

反行カノン

先行旋律で提示された音形を、上下逆さまに模倣したものを反行カノンと呼びます。譜例5では、第3度音を軸に反行させています。結尾において、模倣旋律が主音(終止音)に自然につながるように調整します。しかし、並行カノンとあまり変わらずに書けます。

【譜例5 反行カノン】
反行カノン

逆行カノン

書くのが一番難しいカノンです。先行旋律のリズムを変えずに曲尾から曲頭へ向かうように前後反転させます。これを逆行と呼びます。この逆行させた旋律こそが模倣旋律になります。先行旋律と逆行旋律がカニにように横移動するさまから、蟹行(かいこう)カノンともいいます。また、見ようによっては旋律が曲の中心まで進んだ所で折り返しているようにも見えます。

【譜例6 逆行カノン】
逆行カノン

逆行カノンの書き方は、旋律を曲頭と曲尾から中央に向かって同時に音を書いていきます(譜例7)。中央に達すると先行旋律と模倣旋律が交差します。この時、同音が連続で打たれることになるので、同じリズムが続かないような工夫が必要です。ヘミオラといった転拍子を試してみるのも面白いと思います。

【譜例7 逆行カノンの書く順番】
逆行カノンの書く順番

注意点として、旋律が交差するまでの往路と復路では、音価の組み合わせにずれが生じ、それに伴って音程も変化します。たとえば、前半に6度5度(経過音)の連続があると、後半で連続5度が発生してしまいます(譜例8の2・5小節目)。したがって、逆行カノンでは、音程について往路と復路の二倍注意を払わないといけません。

【譜例8 連続5度が発生する】
連続5度が発生

反・逆行カノン

反行と逆行を同時に処理したカノンです。譜例10では、開始音を軸に反行させています。反行すること以外は、逆行カノンと同じように書きます。

【譜例9 反・逆行カノン】
反・逆行カノン

さて、実はこの楽譜にはある仕掛けがあります。それは、楽譜を上下ひっくり返すことで模倣旋律が浮かび上がる、というものです(譜例10・11)。2人の奏者が楽譜を挟んで対面になって演奏することができます。このようなものを、「鏡像カノン」呼びます。

【譜例10 鏡像カノン】
鏡のカノン

譜例11は、譜例10を180度回転させた全く同じ楽譜です。反対から見ても楽譜として成立しています。なんだか不思議ですが、ト音記号の第3間を上下逆さまに見ると、ヘ音記号を振ると第2間のドになる、というのがヒントになります。

【譜例11 180度回転して表示】
譜例10を180度回転して表示

拡大/縮小カノン

拡大/縮小カノンは、先行旋律の配列と構造を保ったまま、相対的に拡大あるいは縮小させるカノンです。順に見ていきます。

拡大カノンは、先行旋律の音価をn倍させたものが模倣旋律となります。この時のnは、整数である必要はなく、1.5倍(付点)や1.33...倍(3連符)といった実数でも可能です。拡大カノンは、並行カノンと同じように書きますが、定旋律となる音価に余裕がある分、自由な旋律線を書きやすいと思います。この拡大カノンの技法は、フーガでよく見られます。

【譜例12 拡大カノン】
拡大カノン

縮小カノンは、拡大カノンと逆に、先行旋律の音価を1/n倍してものが模倣旋律になります。音価が短く展開が早いので、拡大カノンよりも書くのが難しいと思いますので、次で詳しく述べます。

【譜例13 縮小カノン】
縮小カノン

縮小カノンの難しさは、先行旋律が模倣旋律に追いついてしまうことにあります。そして、その追いついた点では、連続1・8度が生じます(譜例14)。譜例13では、ちょうど追いつく点を終止しましたが、これは曲短いからできたことです。しかし、長い曲の場合はそうもいきません。

【譜例14 追いつくと連続8度に】
追いつくと連続8度に

解決策として、先行旋律が模倣旋律に追いつきそうになると、コーダ(コデッタ)を挟んで仕切りなおす、あるいは反行させることで模倣旋律を追い越すなどが考えられます。ただし追い越した場合、そこからは縮小カノンではなく、拡大カノンとして書くことになります。

二重カノン

主題(先行旋律)が二つあるカノンです。ある旋律に別の旋律が付随している、というものです。先行旋律が二つある、ということは模倣旋律も二つ必要になります。したがって、二重カノンは、4声で実施することになります。

【譜例15 二重カノン】
二重カノン

無限カノン

無限カノンとは、反復記号を用いて無限かつ自然に繰り返せるように工夫したカノンのことです。譜例16の曲尾をみると、曲頭で提示された主題が模倣旋律と共に途切れることなく書かれていることが分かります。

【譜例16 無限カノン】
無限カノン

反復部には、主題が組み込まれています。ということは、主題と合致する模倣部(であり先行旋律)を書かなければなりません。譜例17の楕円で囲んだ箇所がそうです。

【譜例17 反復部の書き方】
反復部の書き方

このような場合は、譜例17の4小節目下段の旋律と5小節目上段の旋律の両方に対応する論理積的な旋律が要求されます。これは、次の譜例18で示す方法で求めることができます。

【譜例18 論理積的な旋律の求め方】
論理的な旋律の求め方

三段の五線を用意します。上段にはオクターブ上げた主題を、下段には1小節前の模倣旋律をそれぞれ挿入します。そして、上段そして下段と対照させながら、良好な響きの旋律を紡いで中段に書いていきます。しかし、色々と試してみても無理な時があります。その場合は、更に遡って音を変更するか、小節を追加する、などの調整が必要です。

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曲に組み込まれたカノン

最後に、カノンが曲の中でどのように使われているのか、実曲から見てみましょう。ここでとりあげるのは、ベートーヴェンの交響曲第9番から第2楽章とフランクのヴァイオリン・ソナタから第4楽章の2曲です。この二つの曲は、カノンを効果的に使っている好例です。

ベートーベン:交響曲 第9番 第2楽章

まず、ベートーヴェンの交響曲第9番の第2楽章をみてみます。9小節目から、弦楽器による5声のカノンが始まります(譜例19)。このカノンは、対位法的な構造をもっていますが、同時に調性感も持ち合わせています。

調性感を持たすために、先行旋律は主調で、模倣旋律は属調と、交互に転調して主題を提示しています。これに関連して、主調の時の主題は、開始音の属音から4度跳躍しています。しかし、属調の時の主題は、5度跳躍に変更されています。この変更は、調(和音)に迎合するための変更でしょう。楽譜下部に振った和音記号をみてみると、主和音と属和音が中心に構成されていることが分かります。

【譜例19 交響曲第9番 第2楽章】
ベートーヴェン:交響曲第9番 第2楽章

フランク:ヴァイオリン・ソナタ 第4楽章

つぎに、フランクのヴァイオリン・ソナタの第4楽章をみてみましょう(譜例20)。先行旋律をピアノが演奏し、それをヴァイオリンが模倣しています。このカノンの音程を確認してみると、4度度音程や2度音程といった不協和音程を形成する箇所が多くあります。もし、バスを含めて3声としても、4度音程や連続5度があります(そもそも連続5度など気にしてないでしょう)。

フランクのカノンは、対位法というよりも和音構成音を主体にしてカノンを表現している、と見ると自然です。譜例20の下部に振った和音記号を見てください(1小節目3拍目は主音上の属和音)。たとえば、4小節目1拍目の2度音程は、不協和音である属七和音です。だとすれば、不協和音程があったとしても、和声が不協和音を解決してくれます。

【譜例20 ヴァイオリン・ソナタ 第4楽章】
フランク:ヴァイオリン・ソナタ 第4楽章

二つの例をみてきました。共通項として、どちらのカノンも和声を前提としていることがあげられます。しかし、その組み立て方は対称的です。

ベートーヴェンのカノンは、和声法と対位法の折衷的なものであり、単体のカノンとしても独立することができます。その一方で、フランクのカノンは、和声(和音構成音)に強く依存したものでした。このフランクの和声に強く依存したカノンは、あらゆる場面でカノンを書ける可能性を示唆しています。それは、不協和音の解決を和声にまかせることで、旋律による拘束が緩くなり、自由な旋律線を書くことが可能になるでしょう。

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おわりに

作曲において、カノンはフーガと比較するとあまり重要視されていないように感じます。筆者は音大に行っていないので分かりませんが、カノンの作曲法は、授業で軽く触れる程度だと思います。しかし、カノンで用いられる模倣技法は、さまざまな場面で見かけます。それだけこれらの技法が重要である、というでしょう。

カノンを書いてみるのは、フーガよりは敷居が低いと思います。というのは、楽曲形式がなく、これまで提示してきた作例のように、極端に短くてもカノンとして曲が成立するからです。パズル感覚で、8小節程度の二声のカノンをいくつか書いてみると、よい経験になると思います(逆行カノンはずっとパズルです)。

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更新情報

  • 公開日:2020-04-20