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金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。

バス課題の基本的な考え方

二つの初歩的なバス課題から、実施の可能性について考えます。和声法の初期で現れるバス課題は、4〜12小節程度の短い曲です。筆者のように独学の人は、解法のコツ(という名の形骸化)を掴んでしまい、和音設定さえ済めばさっと解けてしまうかもしれません。しかし、これは禁則を発生させないことに主眼をおいたもので、後々とても苦労します。本記事では、筆者がバス課題をどのように考えて実施したのかを概観します。

本記事の対象は、和声法を規則を少し知っていて、バス課題が運要素のあるパズルにしか感じない、という人です。要求される和声法の知識は、V7とII7の和音が登場する段階です(芸大和声の1巻レベル)。なお、筆者の経験に基づいて書いたものですから、先生に師事している人は、その指導方針を優先してください。

バス課題の実施例

基本形によるバス課題をみてみましょう(譜例1)。すべて基本形ですから、バスの音がそのまま和音の根音になります。

【譜例1 基本形】
basses_donee_1

譜例2が完成した実施例です。きれいに書けたと思います。(和音の上部に付されたアルファベットは、それぞれ、C(close position)が密集配置、O(open position)が開離配置、N(non-standard)が標準外配置、を指しています。)

【譜例2 実施例】

この実施例は、禁則を犯していませんから、機械が評価すると100点が付くと思います。しかし、人が評価するのであればどうでしょう。あまりよい評価が付かないかもしれません。

どういうことでしょう。次項で詳述しますが、和声法ではソプラノが旋律線を受け持つ、という前提があります。その前提を踏まえて、実施例のソプラノを確認すると、ドシレの僅か3音しか使っていないことが分かります。これでは旋律的と言えるほどの強度はなく、ソプラノの旋律線が完全に停滞してしまっている、といえます(学習目標や学習段階によっては問題ありません)。

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バス課題の目的

バス課題の目的を端的にいえば、ソプラノに旋律を付与することです。和声法には、ソプラノが旋律線を請け負う、という前提があります。もし、ソプラノの旋律線が停滞するのであれば、他の声部が旋律的に、あるいは連続した和音の継起的な運動など、納得させる理由が必要です。

譜例3は、譜例2を改善してソプラノを旋律的にしたものです。ドからシまでの7音を使っています。また、半終止に向かって上行し、完全終止に向かって下行するような旋律線になっています。これを可能とするのは、密集/開離配置の転換です。

【譜例3】

密集/開離配置の転換は、標準外配置を介して行う印象がありますが、常に可能です。密集から開離配置に、あるいはその逆を直接転換できます。このとき、連続や直行が発生しやすいので、注意深く音を紡いでいきます。

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旋律線の停滞

しかし、なぜソプラノの旋律が停滞してしまうのでしょうか。別のバス課題からその原因を探ってみましょう。譜例4は、転回形を含んだ少し難しい課題です。V7やII7の和音が使えそうなので、積極的に使います。

【譜例4 転回形】
basses_donee_2

実施したところ、次のようになりました(譜例5)。譜例2と同様に、ソプラノの旋律線が停滞しており、かつ前半と後半の旋律が類似していることが分かります。

【譜例5】

うーん、ソプラノの音高や配置が悪いのかもしれません。でもその良し悪しは、書いてみないと分からないし、頭の中でやってみるのも大変です(総当りに近い作業です)。こうなると、旋律線を書くには、今やっている方法ではない、別の考え方が要請されそうです。その検討のために、譜例5をどのように実施したのか、再現してみましょう。

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縦に連続して書かない

下掲の実施例は、譜例5の実施最中を再現したものです。設定した和音にしたがって、音を縦に連続的に書いている様子が分かります。実はこの縦に書いていく方法がソプラノの旋律線を停滞させる、大きな要因の一つになっています。

【譜例6】

なぜ任意の配置(密・開など)にしたがって縦に、つまり、ソプラノからテノールに向かって(あるいはその逆に)書くと、ソプラノの旋律が停滞するのでしょうか。その要因の一端に、旋律線の見通しが立てられないままに和音を書いてしまったことがあげられます。

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旋律線の見通しを立てる

旋律線の見通しを立てるとは、和音に先立ってソプラノの旋律線を考えることです(譜例7)。旋律線は、前半と後半で対比させるように書くのが好ましいです。この時、大まかな和音は意識しますが、実施可能な完璧なものを書く必要はありません。絵の下書きのように、大きくアタリを取って、後ですり合わせていきます。

【譜例7】

なるほど、しかし、出だしの音を決定するには、やはり総当りが必要なのではないか、と思うかも知れません。この総当りを回避するテクニックとして、ソプラノの旋律線をバスと反行させたものにする(バスに反行させるのも十分に形骸化した発想でしょう)、II6の最適配置を意識する(上主音を呼出す)、などがあります。とはいえ、やはり旋律線のイメージを想起することが大切です。

そうして出来上がったものが、譜例8になります。まず、ソプラノの旋律線を書いて外声を完成させてから内声を書きあげました。同音が連続する箇所は、適宜タイで接続します。タイを用いることで、エレガントな印象になります。

【譜例8】

譜例8をみると、書きたい旋律線に合わせて、五の和音か七の和音のどちらを選択するのか決定していることが分かります。V7やII7の和音は、使えるから使うというものでありません。旋律線と兼ね合いを見て、慎重に和音を選択します。

また、ソプラノに現れる限定進行音が、解決を無視して二度下降しています。このような例外的な進行も、起伏に富んだ旋律線を書くためには必要になってきます。なお、半終止には、Vの和音ではなく代理でIII6の和音を使いました。これは、テノールの旋律線を意識したものです。

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おわりに

バス課題の実施を通して、実施する上での基本的な考え方を見てきました。それは、まずソプラノの旋律線を考える、というものでした。といっても、これも考え方の一つにしかすぎません。たとえば、譜例8の2小節目のバス、テノール間での直行8度が気になる場合は、別の旋律線を考える必要がありそうです。このように、和声法の課題では、様々な可能性を考慮に入れながら実施します。

バス課題の実施例を観察してみてください。よい実施例は、主和音から属和音に向かって半終止する旋律、そして属和音から主和音に向かい完全終止する旋律の2つで構成されていることが分かります。この旋律を意識するか否かで、バス課題の実施の完成度、敷いては和声法そのもの面白さも変わってくると思います。

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参考資料

  • デュボワ,テオドール『和声学――理論篇』平尾貴四男訳、矢代秋雄校訂、音楽之友社、1978年
  • 島岡譲・他『和声――理論と実習』音楽之友社、1964-67年

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更新情報

  • 公開日:2020-09-10