作曲・浄書・指導・音響

金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。


86)リマスターと音圧

リマスター盤のCDを買ってとてもガッカリした。スピーカーからは恐ろしくのっぺりとした、全く抑揚のない音が聞こえてきたのだ。

昨今、リマスターといえば、もっぱら音圧(ラウドネス)を上げることが目的となっているように感じる。音圧を上げると迫力がでる一方で、音がもつディティールやニュアンスがひしげてしまう。つまり、リマスターは、音が持つポテンシャルを犠牲にしてまで音圧を稼いでいる、ということになるだろう。この事象は「音圧戦争(Loudness war)」と呼ばれ、批判の対象となる。

しかし、音圧の稼ぎは何もエンジニアだけの問題ではないだろう。聴衆側もまた音圧を求めているからだ。それは、単純な迫力性を求めているから、という理由だけではなく、音楽の聴き方が変化した結果といってよいだろう。というのも、音楽をアンプを通してスピーカーから聴く、という層が減少し、その代わりにスマホやパソコンで音楽を聴く層が台頭したからだ(別に統計をとったわけではない)。

スマホやパソコンで音楽を聴く、というのは、低品質な組み込みスピーカーやイヤホン、あるいはヘッドホンで音楽を聴くということでもある。また、騒音の多い屋外で音楽を聴くことも、もはや普通のことだ。ぼくも通勤するときは、ウォークマンとブルートゥースイヤホンで音楽を聴いている(稀にスマホから直接音楽を再生している猛者も見かける)。このような劣悪な環境時に安定した音楽を聴くときに重要になるが音圧である。

音圧があると、騒音でかき消されてしまうような小さい音がしっかりと聞こえる。音圧を上げる、という行為は、音の最大値と最小値の差を小さくすることだ(詳細は後述する)。その結果、貧弱なスピーカーでも鳴っている音が聞き取りやすい。このように音圧を上げる行為にも、一応のメリットは存在している。だが、それは収録されている音源を加工したものであり、作者や元のエンジニアが想定したであろう音を聴くことは不可能だ。これが最大のデメリットである。

だが今後、音圧を上げるためのリマスターは不要になると予想される。YoutubeやSpotifyにおいては、すでに自動で音圧を調整するシステム、「ラウドネスノーマライズ」が実装されている。これは、音圧の稼ぎ(調整)を音源を加工して行うのではなく、再生するソフト側に任せて行うものだ。つまり、音質を任意で選択することが可能となるのである。しかし、音楽業界はどうにかして音楽を売らなければならない訳で、リマスターというお手軽な再発売システムを手放すとも思えない(EL&Pなどは常にリマスターしている印象がある)。

さて、基本的な音圧の稼ぎは(音圧を高める行為)、主としてコンプレッサーというエフェクトを使用する。コンプレッサーは、入力された音が設定した音量を超えると、その超えた部分の音を潰すものだ。つまり、波形の最小値と最大値の差が小さくなる。その後、全体の音量を上げることで音圧が稼がれるのである。この作業を繰り返すことで、健全な波形が一本の太い棒状の波形に変容するのだ(このような波形は、「のり波形」と揶揄されている)。

2019-09-28