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金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。


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66)少年時代(A)

漫画の整理をしていたはずが、いつのまにか藤子不二雄Aの『少年時代』(愛蔵版、中央公論社、1989年)を読んでいた(本の整理と読書は切り離せないのだ)。

1997年、僕が小学校高学年の時に、駸々堂(しんしんどう)という書店が金沢駅の近くにできた。駅前のオフィスビルの1・2階をまるまる使った大型の書店で、雑誌から専門書までかなり品揃えであった。とはいえ子供なので足が向かうのは漫画コーナーと決まっていた。そこでは『鉄人28号』や『キャプテンハーロック』といった古い作品に焦点を当てた、秋田書店の「秋田コミックセレクト」や「秋田サンデーコミックス」、中央公論社の「愛蔵版」といったシリーズがラインナップされていた。ひねくれてた僕は積極的これらのシリーズに食指を動かしたのである。そんな訳でそれなりに漫画は持っていた(が、祖母と大喧嘩して大半を手放す)。

そんな時分に買ったのが最初に紹介した『少年時代』だ。小学生が買うにしては少し渋い表題に思われるが、その前に『ブラックユーモア短編集』にドハマリしていたので、藤子不二雄Aの漫画を見かけたら買う、という流れがあったのだろう。『少年時代』は藤子不二雄Aの作品としては珍しく原作があり、柏原兵三の長編小説『長い道』(1969)がそれにあたる。また、1990年には当作を下敷きにした篠田正浩監督による映画『少年時代』が公開された(井上陽水《少年時代》はテーマ曲だった)。それにあわせてか当書の巻末に篠田がメッセージを寄せている。捨ててしまったが帯も映画の広告であったと記憶している。

『少年時代』は、東京から富山県泉山村に疎開してきた少年風間伸一と泉山村の少年タケシとの一年に渡る友情の物語である。だが、よくある道徳的な物語ではなく、タケシが暴力によって学級を支配するという権力闘争を話の軸に据えたものだ。タケシは伸一との愛と友情、そして学級での支配という二面性を持っており、伸一はどちらが本当のタケシなのか分からず葛藤する。これはかなり怖いしホラーといってもいい。二人きりの時は優しい少年が、集団の時は圧倒的な暴力で学級を支配する横暴な少年に豹変(?)するのだ。子供の無邪気な残虐性とは違ったもので、当作の特徴の一つだろう。また、富山の自然を四季折々に描写しておりそれがとにかく美しいし、散居村といった富山の特徴も丁寧に描かれている(劇中に登場する泊駅は現在も同じ造形だ)。これは藤子不二雄Aが実際に富山県の朝日町山崎に疎開していたからこそ描けたものだろう。

『少年時代』は長らく絶版であったが、紙媒体は復刊ドットコムから「完全版」や「藤子不二雄Aランド」として再販されているし、電子書籍として「藤子不二雄(A)デジタルセレクション」もでている。復刊ドットコムの「完全版」は一冊3千円(全3巻)と値が張るが、完全版と謳っているだけあってカラーページが用意されている(もしかしたら扉絵も)。また、2014年に刊行された『@ll 藤子不二雄A』では『少年時代』の第一話が完全再現としてカラーで収録されている。興味が湧いた人はぜひ読んでみて欲しい。

全く話は変わるが、大学の授業でFinaleを使って楽譜を作成しようというコマがあった。その時の課題曲がなぜか井上陽水の《少年時代》(1990)だったのだ(藤子不二雄Aの『少年時代』でこのことを思い出した)。メロディーと各楽器の出だしとパターンのみが記譜された楽譜を渡され、ボーカル、ストリングス、ギター、ベース、ドラムによるワンコーラスのスコア(総譜)とパート譜を作成するというものだ。課題としては提示されたパターンを繰り返して最後まで書けばよいのだが、すでにFinaleに慣れていた僕はアレンジも一緒にやってしまったのだ。その時のデータが残っていたので公開する。(正直、かっこよくできてる気がするが、それは元の楽曲が素晴らしいからだろう。)

2019/04/16


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