作曲・浄書・指導・音響

金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。


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61)イリンクスと作品

「イリンクス」とは、ジェットコースターにのったり、薬物や香を使用するなどして変性意識状態になる遊びだ。これはロジェ・カイヨワが『遊びと人間』(1958)の中で提唱した遊戯の4分類の一つで、遊戯をアゴーン(闘技)、ミミクリー(模倣)、アレア(運)、イリンクス(目眩)と分類している。

3月12日、ピエール瀧が違法薬物の使用で逮捕された(正直驚いたしそれ以上にがっかりだ)。それに伴って彼が関連する作品の販売停止や回収が行われている。この対応は、反社会勢力へ抵抗としてのポーズとともに、逮捕が契機となって(注目を集めて)関連作品の売上が伸びる可能性を摘むことが目的であろう。(関わった全ての作品の停止・回収を支持している訳ではない。)

ネットではこの対応に対して、「人と作品は分別すべき」といった批判が圧倒的に多い。しかし、私はこの対応が間違っているとは考えていない。なぜなら別の問題があるからだ。それは、薬物の体験/経験なければ(あるいは頼らなければ)生まれてこなかったであろう作品を是としてよいのか、というものだ。

この問題の本質は、違法な薬物によって生まれた作品を容認することが、同時に薬物使用の容認につながってしまうところにある。この容認は、アーティストに薬物使用という反社会的行動と名声や物語の獲得とを対照させる選択を提示することの他ならない。薬物を使用することで、結果的に得となる状況を作り出す訳にはいかないのだ。

また、ネットでは次のような意見も散見される。「往年のロックスターは問題ないのか」、つまり「今までは許されてきたのだから、そこまでする必要はないのではないのか」というものだが、これにも答えておきたい。

答えは、往年のロックスターも当時は問題だったろうし、そこまでする必要がある、というものだ。まず時代も文化も違う事象と当世日本の事象とを照応させるのは不自然だろう。時間を量的に考えれば50年そこら前の話かもしれない、しかしその間には情報量が急激に増加したという事実がある。つまり、時間を質的に考えればそこに深い溝があるのだ。それは私たちが「昔は普通だった」というように。このような意見は、身近に潜んだ違法薬物という社会的な影響の一切を捨象した無責任なものだと思う。

薬物と作品の関係については、オルダス・ハスクリー(1894-1963)の『知覚の扉』(1954)に詳しく記されている。ハスクリーは、自ら幻覚剤メスカリンを摂取し、生理学的に効用を考察するとともに、宗教や絵画にみられる「幻想」や「幻視」といった彼岸世界への扉の謎を解き明かそうとする。つまり幻覚剤を使用することで、作家の眼を通して(直観で)世界を知覚しようとするものだ。

2019/03/14


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