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金沢音楽制作

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60)五度圏の謎

ふと、五度圏(英:circle of fifths)というものを思い出しました。五度圏とは、各調の調号を完全5度関係で円環状あるいは螺旋状に配置した図です(当ブログは画像は用いないので、適宜画像検索してください)。五度圏は、クラシック/ポピュラー関わらず、音楽の学習を初めると高確率で図書に登場する印象があるので、それだけ重要な事項なのでしょう。しかし、僕は五度圏の使い方を知りませんし、また図を暗記しているわけでもありません。というわけで五度圏が何なのか調べてみました。

『ニューグローブ世界音楽大事典』の索引から「五度圏」を引いてみたので、当該項目の部分の引用を示します(第6巻、537頁)。

12の長調あるいは短調の主音を完全5度ずつ上昇あるいは下降させ、その結果閉じた円ができるように配列したもの。こうした配列を可能にするには、この円のどこかで異名同音的な関係が存在しなければならない。[中略]ピュタゴラス音律においては、異名同音が存在しえないので「円」は閉じない」とも。

5度圏はハイニヒェンの《通奏低音 Der Generalbass》(1728)のなかで最初に記述され、それ以来、二つの調の間の和声的な「遠隔性」を図示する方法として多くの理論家によって使われてきた。つまり2音が円に沿って幾つの5度を経由しているかによって「遠隔性」が図られるのである。

第1パラグラフでは、五度圏の図が円環状で閉じたものと、螺旋状の開かれたものの違いについて記述されています。五度圏は、図形によって音律が異なることが表されており、平均律であれば円環状の図を、ピュタゴラス音律といった純正律であれば螺旋状の図を用いることになります。

第2パラグラフでは、五度圏の歴史と使用法について記述されています。まず使用法です。五度圏は、二つの調性間を「遠隔性」とよばれる性質を図る装置とされています。遠隔性の決定は、ある調からある調まで完全5度を何回経由したかがその尺度となるようです。例えば、ハ長調とト長調(あるいはヘ長調)は、五度圏で隣接の関係です。つまり完全5度を1回だけ経由するので遠隔性は低い、といえます。一方で、ハ長調と嬰ヘ長調は完全5度を6回経由するので遠隔性は高い、ということなのでしょう。

歴史をみると、バロック後期のドイツの作曲家ハイニヒェンが1728年に発表した論文がその嚆矢とされています。しかし、Wikipediaで「Circle of fifths」の項目をみると、Nikolay Diletskyという理論家・作曲家が1679年に五度圏の図を発表しているようです。日本で『ニューグローヴ世界音楽大事典』が刊行されたのは1993-ですから、情報が古いあるいは現在の五度圏とは異なるものなのもしれません。『ニューグローヴ世界音楽大事典』は現在オンラインで『Oxford Music Online』として提供されており更新されている可能性もあるので、興味がある人は図書館や大学にて引き続き調べてみてください。

まとめると、五度圏とは、バロック後期に発表された調関係の遠隔性を図る装置ということになります。バロック後期は和声が爆発的に発達した時代ですから、五度圏のような発想がでるのは自然だと思います。そしてそれは、調関係を図示するのに便利であることから、現在まで残っているのでしょう。

また、ネットで五度圏を調べてみると、裏コードを調べるのに利用できる、という記述を見かけました。C Majorならば、ドミナントのG Majorに着目してその対岸(裏)をみることでDb Majorという裏コードが分かる、というものですがこれは少し調べる必要がありそうです。というのも、C Majorのトニックへの裏コードへの解決は[ Db7 > CM7 ]です。もしこれをDb Majorに依存すると[ DbM7 > CM7 ]と違う形になってしまいます(そもそも、裏コードは解決先の短2度上の7thコードと覚えたほうが楽です)。

なお、「裏コード」という語は『ニューグローブ世界音楽大事典』に項目は存在しないので、俗的な呼称かもしれません。裏コードは一般的に「Trintone substitution」とよばれており、その名が示すとおり「置換(読み替え)」としています。「裏コード」という語の典拠についてはいつか調べてみたいと思います。

2019/02/23


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