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金沢音楽制作

金沢音楽制作では、楽曲・楽譜の制作と、作曲や写譜などレッスンを行っています。


55)続・程度の低い本

前回の続きになってしまいますが、もう一つ酷い本を思い出しました。それは、仰木日向『作詞少女』(2018、Yamaha)です。当書はライトノベルを通して作詞を教示するもので、そのテーマ自体に問題はありませんし、そのクオリティは今回問題としません。問題は、実例として掲載された譜例が全て完全に崩壊している、つまり楽譜としての機能を持っていないレベルのものが掲載されていた点です。当該の譜例は145頁、302頁、そして350頁の三箇所に表れるので、一つずつ見ていきましょう。

まず145頁の譜例は、調号が意味不明な位置に配置されており、またト音記号やヘ音記号といった音部記号が記述されていないため、調の判定が不可能です。仮にト音記号とした場合、左からG#、C#、A#、E#、B#となりますが、先頭のG#はフォントサイズが異なっており、あとから付けたことが分かります(調号の位置から察するに当初はヘ音記号で書かれたのでしょう)。したがって、この楽譜ではメロディをどう読めばよいのかが分からず、演奏は困難でしょう。

次に302頁です。この譜例では音部記号としてト音記号が、調号として#が4個ついていることから、ホ長調か嬰ハ短調だと推測できます。なお、なぜか拍子記号がありません。一見するとまだまともな楽譜に見えますが、とんでもない。肝心の音符を見てみると、出だしは、ド#ド♮ラ#ド♮ド#と変異記号が多く付けられています。おそらく作成したメロディに調号をあとから無理やり付けたのでしょう。これを移動ドで書き直すと、ドシラシドと自然な音列になります。いずれにせよ、調号と旋律の調が合致しておらず、その読譜は困難です。

最後は350頁です。この譜例は145頁で提示されたものの完成型です。こちらは音部記号、調号、拍子記号、速度表記に加えてリハーサル記号やコードネームが記述されています。まず音部記号にはト音記号が、次に調号は#が7個(!)つけられ、自然に考えれば嬰ハ長調か嬰イ短調でしょう。しかし、楽譜の二段目以降になると突然調号の#は4個に減り、適宜ミ音に#の変異記号が付けられています。また、速度は四分音符=240と定義されていますが、常識で考えられば記譜の音価を半分にして、四分音符=120とすべきでしょう。そして、上部に付けられたコード表記もかなりいい加減であるなど、譜例の誤り(といって良いのか)の指摘には枚挙に暇がありません。

また、全ての楽譜の共通することとして、初段を含む全ての段の左に縦線がついています。おそらく、メロディと他の楽器(和音を出すような)で書いた楽譜(連合譜表)を、画像編集で他のパートを削除してメロディ譜にしたのでしょう。

さて、こうなってくると『作詞少女』の制作に関わった人の中には、楽譜を読める人が一人もおらず、当然その譜例を一度も演奏していないということになるでしょう。あのYamahaから出てるのに楽譜を読める人(確認した人)が一人もいなかったというのはどういうことなのでしょうか。もしかしたら訂正表がでているかと思ってサイトに公式サイトにいくと、なんと音源を配布しているではないですか。どうやら350頁の楽曲のようで、その曲に歌詞をつけてみよう、という趣旨らしい。聞いてみましたが、この速度で歌えるのでしょうかね。まぁ作者は歌えるのでしょう。最近はこんな本ばっかで嫌になる。

2019-01-15